完成をみたもの

学校は休校になっているので、ツーツクは友達のスナイロユンクの家を訪ねる事にした。
級友のヴォルグからの連絡によると、授業はいつ再開するか分からないらしい。


閑静な住宅街の中にある、赤い屋根の小さな家を訪ねると、
ユンクのテュッテが出迎えてくれた。

「こんにちは、ツーツク。どうぞ入って」

「うん。こんにちは!お邪魔しま~す」

温かい部屋に通されると、ツーツクはまた眠気に囚われそうになった。

出された琥珀色の紅茶に、角砂糖を多めに入れてかきまぜる。
爽やかな香りが、目の前のスナイロユンクに似合っていると思った。

「何だか眠そうねぇー、ツーツク。
また夜通し木登りや殺し屋ごっこをして遊んでいたの?」

「最近はそんな事、しないよ。若気の至りっていうか…僕も成長したんだよ」

「背も伸びてないのに?!」
高い声がしたと思ったら、テュッテの妹のココッテが、
ツーツクの肩を羽でばしんとはたいてきた。

「成長したっていうのは、できることが多くなったって事なのよ」

とテュッテは言う。

「ツーツクが?」

「ツーツクもそうだし、私も…ね」

急にテュッテの表情がくもった。

「パイ生地を完成させられるようになったの。やっと。」
「?」

心なしか声が震えて、細い肩も少し震えているように見えた。
弾かれたように顔を上げると、テュッテは涙を溢れさせて語気を強めた。

「私、貴方たちの家族になりたかった!」

唐突過ぎる言葉に、ツーツクは呆気にとられた。

「何言って…」
「だってもう…僕はそう思ってたよ。そうじゃなかったの?」

「っ…!」
ユンクは袖で涙をぬぐうと、ツーツクに向き直った。
「ありがとう」
涙の痕は残っているけれど、もう、いつものように優しい笑みを浮かべていた。


「えーっと、そろそろアップルパイが焼けるから、
改めておやつにしましょう?紅茶も別のフレーバー入れて!」

ココッテは微妙そうな顔をして姉に問うた。
「おねーちゃん、こないだみたいに砂糖と塩を間違ってないよね?」
「そ、そんな事実は無かったでしょ」
「あったもん…」

ツーツクはキッチンへ向かうテュッテとココッテを見守っていた。
なぜか足を動かせずに。
急に2人が遠くに行くような気がして、寂しさを感じたせいだった。
どうしてそんな感覚に陥ったのかを疑問に思いながら、強く感じる感情があった。

まるでもう会えないような、長い別れのような…。
それは確信に満ちていて愛しい感覚に思えた。

圧倒されるような、気の遠くなるような。
一言で表すなら運命という言葉が近いのかも知れない。
運命とはある方向へと存在をさらって行く、抗えない力だ。

ツーツクはそんなものを実感した経験は無く、自分が何を感じているのか分からなかった。
ほんの十数秒の間、
果てしない道や、終わりのない時を目の当たりにしたかのように、
一人で途方に暮れてしまった。

「どうしたの?ツーちゃん」

「ううん、何でもない!」
思いをふり切るように頭を振って、2人の後を追った。


おやつの後、テュッテたちは家の人と用事があるそうなのでお開きとなり、
ツーツクは次にどこへ行こうかと思案した。

夜までは、まだ時間があるからだ。
このまま一人になって家で日没を待ちたくないと思った。

見送られる頃には午後4時頃になっていて、西の空にはうっすらと金色が刷かれていた。
別れ際に、テュッテはその空を見て言った。

「綺麗ね。私、夕焼けが好き。明日もいい天気だなって分かるから。
…どんなに暗く明かりの無い夜道でも、必ずまた朝が来るわ。
日が昇るのを見るために、夜を超えるの…そうでしょう?」

「…うん」

ツーツクはどうしてそんなことを言うのかなと思ったが、同意した。

3.jpg


~つづく

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