おわりのはじまり



ネオピグミーのツーツクはユキワラベの少女を訪ねて、とある家の庭に入った。
古いお屋敷で幽霊でも出そうな所なのだが、庭だけは手入れがされている。
ユキワラベのフレンシルはその家の使用人をしていて、ツーツクにとっては特別な存在だった。

庭の端に佇んで、フレンシルは遠くの空を見ていた。
「何を見てるの」柔らかい芝の上で隣に立ち、ツーツクは彼女を見上げて訊いた。
フレンシルは質問には答えず、意味深なことを逆に尋ねた。

「お前は感じ取っているか?」

「…感じ取るって、何を?」
ツーツクは一つあくびをして、空から頬に落ちた水滴に気付いた。

「雨だ…」


ユキワラベの少女はツーツクを残し、草原の丘陵をくだり始めた。
「どこ行くのー?」
「どこでもない。お前はもう家へ帰れ…あいつが心配するだろう」


(へんなフレンシル。まあいつもの事だけどね…)


おおかた薬草でも探しに行くのだろうと思い、彼女を追う事はしなかった。
少し注意すれば彼女がいつもと違う事に気付いただろう。
しかしツーツクは何日か前から異様な眠気に悩まされており、
見過ごしてしまったのも無理からぬことなのだった。

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「ただいまー。」


返事はない。ユーファナスはまたどこかへ出掛けている。

最近変だなと思う。暫く前に教師の職を辞してから、こういう事が多くなった。
何か用事でもない限りは、一緒に夕飯を食べ、テレビを見たり、勉強を見て貰ったり、各々の時間を過ごし、お休みと言いあって眠ったものである。


いや、”何か用事”があるけれど、自分に言っていないだけなのだろう。
ちくりと胸の辺りが痛んだ。
行き先も言わずに何日もろくに会わない事など今まであっただろうか?とツーツクは思い返してみる。態度はぶっきらぼうでも、以前はいつもツーツクを気にかけてくれていたのだ。

キッチンのテーブルの上には、小さなカップケーキが置かれていた。書き置きはやはりない。

「僕と居るのが嫌になったわけじゃないのかな…」

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ユーファナスは昔船乗りだったという。かつて中世にあってより失われていた、
この世界でリヴリーが活動するために必要な魔法の力が蘇った、その7年後にツーツクが誕生して以来、ふたりは一緒に居る。
それももう来年で10年になろうとしていた。

ツーツクはユーファナスが好きだった。
長い間、家族として暮らして、最初は親戚のような、そして今は親のような存在ともいえる。
どうしてそうなったのかはよく分からなかった。運命のいたずらだろうか。
「今日も帰り、遅いのかな…」
ツーツクの特徴的な茶色い目から、少し涙がにじんだ。



~つづく。



なんとなく出だしは暗い話になりそうなんですが、ハッピーエンドを目指すつもりです。

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